書籍・雑誌

2012年5月 6日 (日)

NOVA7 書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)

Nova7

 大森望氏責任編集よりなる日本SF短編集の7冊目。今回も私にとっておもしろいおもしろくないの差が激しい短編集となりました。
 おもしろいと思ったのが、以下6編。どうも、私は抽象的表現とか、幻想的表現というのが苦手らしい。
「スペース地獄篇」宮内悠介
 要するに未来の宇宙時代の貸金業者がどこでも取り立てに行きますという話なのですが、今回はサイバースペースが重要なキーとなっています。取り立てられる側はどこに逃げたかという一種のミステリー仕立てになっています。アイディアに拍手。
「コズミックロマンスカルテットwith E」小川一水
  「結婚」をテーマにした宇宙SFなのでしょう。かなりぶっ飛んだ展開になっています。小川一水氏って、こんな作風の作家でしたっけ。
「灼熱のヴィーナス」谷甲州
 金星を舞台にした土木ハードSF。読み応えがあるのですが、さあ、これからというところで終わったような気がしています。違うのかなぁ。
「土星人襲来」増田俊也
 この作家の作品は初めてでは無いかと思われます。仙台のヘルス嬢の仕事場に現れた土星人は、という内容のドタバタSFです。ヘルス嬢のリアクションがわかりやすくておもしろいです。テンポもすごく良い。
「植物標本集」藤田雅矢
 植物がテーマのハードSFです。著者が京都大学での農学博士とのことで、作品のアイディア、描写が結構アカデミックな香りがして私の好みです。この短編集の中で一番興味深い作品でした。
「サムライ・ポテト」片瀬二郎
  かなり寡作な作家によるサイバーSFと言える作品。技術者の言うところのプログラムのバグによって自意識を持つにいたったロボットのてんまつを描いたもの悲しいストーリーの作品です。非常に読み応えがある短編だと思います。この作品集の一押しと言ってよいと思います。
 今回の短編集収録短編10作の内、初めて作品を読む作家が6作。まだまだ日本SFの底辺は広いようです。NOVA8にも期待しています。

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2012年5月 3日 (木)

南極点のピアピア動画(早川文庫)

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 最近のSF、ハードなものもそうでないものも含めて、そのビジョンが暗いものが多い中、久しぶりに明るいビジョンの楽天的な大ボラハードSFを読ませていただきました。野尻抱介氏の作品は、「ふわふわの泉」「太陽の簒奪者」を以前読んだことがあって、好きなSF作家の一人ですが、なかなか読む機会がなかった作家です。久しぶりに作品を読んでみて、やっぱり上手なハードSF作家だなと思いました。
 私自身は、小隅レイのモデルとなった初音ミクを触ったことがない(DTMはやったことがあります)ですし、ピアピア動画のモデルとなったニコニコ動画も時々しかのぞかないのですが、その魅力はわかっているつもりでした。しかし、ここで描かれているビジョンは私の想像を遙かに超えるものでした。いいですねぇ、こういうSF。
 そういえば、学生時代、この小説に出てくるような技術者~科学者にあこがれたんですよねぇ。懐かしいなぁ。

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2011年9月18日 (日)

Nova5 大森望編集 河出文庫

Nova5

 大森望編集(すみません、以下敬称略)のSF短編集の5冊目ですが、5冊目にして初めて全作品を違和感なく読み切ることができました。今回は読みやすい作品ばかりが収録されていたことが良かったです。収録作品も粒ぞろいで、今後のNOVAシリーズにも期待してしまいます。

「ナイト・ブルーの記録」上田早夕里
 「魚船・獣船」でも有名な作者ですが、いつもの生物学哲学的な内容ではなく、海洋を舞台とした拡張感覚がテーマとなっています。すごく説得力を感じました。熟練の職人に仕事の感覚を話させたらこんな感じになるのかもしれません。おすすめの一編です。

「愛は、こぼれるqの音色」図子慧
 これも、脳神経と感覚にまつわるお話ですが、趣はだいぶ異なります。脳神経に直接外部から感覚をインプットできるようになったら、当然こういう商売が出てくるだろうなと言う点ではすごく説得力があります。作者はライトノベル系の出身だそうですが、とてもそうは思えない思い作品です。

「凍て蝶」須賀しのぶ
 これは、ホラーというとちょっと違う気がしますが、不思議な話として読める幻想譚と言えるでしょう。この作者もコバルト文庫などで活躍するライトノベル系の作家だそうですが、この作品はもっと一般的な読者を対象としているように思います。登場人物、特にヨールが魅力的です。異形シリーズなどのファンにはおすすめの作品だと思います。

「三階に止まる」石持浅海
 挙動不審なエレベーターの話。ある意味ホラーなんでしょうけど、あまり怖くないです。著者は元々ミステリー作家なのだそうで、展開はまさしくミステリーですが、オチはホラーというか、ファンタジーとでもいいましょうか。特に、最後の二行が良い味を出しているように思います。

「アサムラール」友成純一
 笑ってはいけないのかもしれませんが、思わず笑ってしまう一編。バリ島でのんべんたらりと生活している日本人がとんだ災難に。作中の手記は大体実話とのこと。こんな日本人もいるんですねぇ。この人こそ、平成の無頼派作家と言えそうな気が。

「スペース金融道」宮内悠介
 「盤上の夜」でデビューした著者の新作。趣向としては、「ナニワ金融道」の宇宙版といった感じですが、決してこのマンガのパロディではありません。これはこれで作品として成立しています。宇宙植民時代(しかも、公民権のあるアンドロイドまで登場している)の金融業者というアイディアは斬新で、いかがわしさがえらくリアルです。この短編集の中でも一押しの一編と思いました。

「火星のプリンセス 続」東浩紀
 まだ未完なので、評価はひかえますが、次の展開を期待させられる一編となりました。ただ、「クリュセの魚」「火星のプリンセス」を読んでおかないとよくわからない話だとは思います。

「密使」伊坂幸太郎
 「ゴールデンスランバー」等の本格ミステリーで有名な著者のSF中編。実は、著者の作品はこの作品で初めて読みました。一種の時間テーマのSFなのですが、アイディアと語り口がすばらしいと思いました。とても読みやすくて中編の長さを感じさせないのもよいと思いました。この短編集の中でのベストと思います。しかし、「密使」の正体があれとはねぇ。

 解説によると、「NOVA6」は現在鋭意編集中とのこと。期待して良さそうです。また、「この人の作品が読みたい」とのリクエストも受け付けるとのことです。個人的には、有川浩、機本伸司、谷川流、恒川光太郎と言った所を提案させていただきます。

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2011年9月 3日 (土)

結晶銀河 大森望・日下三蔵編 創元SF文庫

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 創元推理文庫から刊行される年刊日本SF傑作選の第四集です。

 今年の年刊は今までの中で一番SFだとのことでしたが、個人的にはSFとは思えない作品もいくつかあると思われ、まだまだSF化の余地があるように思いました。今回は14編収録されています。

 冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
  いくら人類にとっての福音だとしても、その実験台にされるのはいやな気分なのは間違いないでしょう。この一編は、新人類の親になることに決定した女性の不安な気持ちが良く表現されています。

 小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
  こういう中世を彷彿とさせる時代にコンピューターがあったとしたら、それはどんな物になるのでしょう、当然、人力に頼らざるを得ないのではないでしょうか。この一編はそんなアイディアの下に書かれた短編です。実際にこんなものを作ったとしても、演算部分に必ず計算間違いが出るはずなので、精確な答えが出るはずがないのですが、お話としては楽しめたと思います。

 上田早夕里「完全なる脳髄」
  フランケンシュタインものの短編集に初出の作品だそうです。この作者の作品は、以前、「魚船、獣船」を読んだことがあるのですが、「完全なる脳髄」も雰囲気は作者独特のものになっています。これがよいと思うか否かは読者によると思いますが、私は作者独特のものとして良いのでは無いかと思っています。ただ、この傾向のものばかり読まされるとあきるような気もします。

 津原泰水「五色の舟」
  昨年、NOVAで読みました。そのときも思ったのですが、これってSFなのですかねぇ。私の思っているSFからはちょっと外れている一編のような気がしました。和風近代ファンタジーといわれれば納得するのですが。

 白井弓子「成人式」
  本短編集唯一のコミック。私は作者の名前を初めて拝見したのですが、この作品はよいと思いました。この短編集の中でのお気に入りの一つです。成人の儀式を扱ったSF作品はいくつかありますが、これはその中でも最も長い時間が書き込まれた作品だと思います。ずいぶん気の長い成人式です。

 月村了衛「機龍警察 火宅」
  はっきり言って、これはSFとは思えませんでした。普通の警察小説です。だからといって、つまらない作品ではありませんでした。ただ、「機龍警察」をあらかじめ読んでいないとちょっと入り込めない作品かもしれません。

 瀬名秀明「光の栞」
  作者は生物学で博士号をとっている方なだけあって、生物学的なアイディアは光るものがあるように思いました。生きている本なんて、比喩としてはあっても、実際に作るとなるとどんなに大変かよくわかりました。作品全体の雰囲気も良いです。

 円城塔「エデン逆行」
  ごめんなさい。私はこういうのが苦手です。最後まで読めませんでした。もっと私のようなものにもわかる作品をお願いしたいです。

 伴名練「ゼロ年代の臨界点」
  この短編集の中での一押しです。表題にすっかりだまされてしまいました。非常によく練られた、楽しめる嘘です。ハードSFとはとても言えませんが、これも立派なSFだと言えるでしょう。これが同人誌初出というのですから、最近の同人誌は侮れません。

 谷甲州「メデューサ複合体」
  昨年、NOVAで読みました。本短編集唯一かも知れないハードSFです。ちょっとおとなしめですが、読み応えは十分にあります。木星を舞台とした、土木SFです。

 山本弘「アリスへの決別」
  昨年あたりに話題となった都条例へのアンチテーゼというか、抗議の意味が込められたSFです。とはいえ、少々言い方がきついという気がしたのは私だけでしょうか。それにしても、昔のイギリスではこんなことが行われていたのですね。

 長谷敏司「allo, toi, toi」
 やや長い短編小説ですが、この一編も一押しです。私は心理学は得意ではありませんが、「好き」という感情がいかにあやふやなものであるかは、この一編で思い知らされたような気がします。その結末は決して心地よいものではありませんが、非常に考えさせられる作品でした。

 眉村卓「じきに、こけるよ」
 眉村卓氏といえば、中学生の頃(あぁ、もう35年近く前になる)よく読んだ覚えがありますが、その頃現役ばりばりでしたから、今では多少お年を召されたとしてもうなずける話です。この作品は、なんか、眉村卓氏も年取ったなぁ、という感じばかりが出てきてしまう一編でした。

 酉島伝法「皆勤の徒」
 第二回創元SF短編賞受賞作とのことですが、かなりぐちゃぐちゃな印象がある幻想的なSFです。実を言いますと、私の想像力は全くついていけませんでした。小説の最後に、補助的にイメージ図が書かれていてもです。難しいです。そんな印象ばかりでした。もっとわかりやすくならないものでしょうか。こういう作品ばかりが受賞するとなると、SFを読む人も書く人も減っていくような気がしてなりません。私は間違っているでしょうか。

 「2010年の日本SF界概況」
 これは非常に読み手として参考になりました。是非一読を。

 全体として、2010年はSF短編として豊作だったという結論は否定しませんが、この短編集を見ると、「他人に読ませて金を取る」という観点よりも、「自分が書きたいものを書く」という観点から書かれた作品も多く書かれた一年だったのかなという気もします。個人的には、「お金を払っているんだから、そのぶん、楽しませて、感動させてくれよ」と思う派なので、今後はもう少しトレンドがエンタテイメント側に傾いてくれることを期待しています。

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2011年7月20日 (水)

NOVA4 大森望編集 河出文庫

Nova4
 大森望氏編集の新作日本SF短編集の第4集です。今回はハードSFっぽさは少なめです。
 今回は9編の作品が収録されています。
 「最后の祖父」京極夏彦
 京極氏の、構想自体はかなり前からあったという短編。あるおじいさんの話というのはよくわかったが、全体的に、どうも言いたいことがよくわかりませんでした。これがデビュー作になっていたら、京極夏彦のその後の作風はずいぶん変わったかもしれません。
 「社員食堂の恐怖」北野勇作
 以前、NOVAシリーズで同じ北野勇作氏の、似た舞台の話がありましたが、ホラー度という点ではこちらの方が上かもしれません。とはいえ、個人的にはちっとも怖くはなかったのですが。さて、これからどうなる、と言うところで終わってしまったようなところがあるような気がします。
 「ドリフター」斉藤直子
 今回の短編集の中では一押しと思われます。落語のネタを下敷きにしているとのことですが、そのせいもあってか、話の筋はしっかりしているように思います。40代後半の私にとっては、懐かしく読めたというのもまた事実だと思います。いわゆる官報って、企業の生き死にの話ばかりが載っているのではなかったのですねぇ。
 「赤い森」森田季節
 考古学SFと言っていいのでしょうか。私も(もちろん考古学ではありませんが、)研究者だったことがあるので、あり得ないところであり得ない発見をして愕然とするという研究者の気持ちはわかるつもりです。なかなかおもしろく読めました。私も、「この部分については今後の実験で明らかにしていく予定である云々。」と論文に書いて逃げを打ったことがあります。
 「マッドサイエンティストへの手紙」森深紅
 これも今回の短編集の中ではおすすめの一つ。作者がどの企業をモデルにして作品を書いているのかは(大体見当がつきますが、)わかりませんが、このようなセキュリティ体制をとる企業は実在しています。そのような企業なら、この小説の「ドクター」のような人がいても決してふしぎではありません。私は、この作品が今回の短編集の中で一番ハードなSFであると思っています。
 「警視庁吸血犯罪捜査班」林譲治
 吸血鬼が普通に存在する東京が舞台の警察ミステリ仕立てのSFです。いつもの林譲治節が楽しめます。個人的にも好みの作品です。いくつか突っ込めそうな部分もなくはないような気がしますけどね。
 「瑠璃と紅玉の女王」竹本健治
 竹本健治氏の作品は初めて読んだと思います。ある種おとぎ話のような雰囲気のある作品でした。結末はものすごく普通というか、予想できる内容でしたので、その点、もう少し驚きがある内容だったらもっと良かったのになぁと思っています。おとぎ話なのだから仕方が無いのかもしれません。
 「宇宙以前」最果タヒ
 すみません。この作品は最後まで読めませんでした。最果タヒ氏は詩作が本業とのことで、抽象的なイメージが優先されている前衛的な作風は当然なのかもしれません。
 「バットランド」山田正紀
 この本のレビューを書いている方々のほとんどはこの作品を一押しにしていらっしゃいますが、私にはこの作品の良さがよくわかりませんでした。言っていることがわからないと言うことはあまりなかったのですが、どうしてそうなるのとか、どうして最後にうまくいってしまうのかとかがいまいち納得できませんでした。この作品を良いとおっしゃっている方々はよくわかっていらっしゃるんでしょうけど。

 続刊のNOVA5はほぼできていて、NOVA6も作業進行中とのこと。おもしろい短編集なので、是非長く続いて欲しいものだと思います。

「NOVA4」 大森望編集
河出文庫 お20-4

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2011年5月 4日 (水)

シンギュラリティ・コンクエスト 山口優著 徳間文庫

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 第11回日本SF新人賞受賞作、著者のデビュー作です。

 これはライトノベルなんでしょうか。著者は本格ハードSFを書こうかと思ったのだが、それでは読者層が限定されるので、急遽ライトノベルに書き換えた、そんな感じのする一編です。
 ここでは、二つのテーマが書かれています。一つは、人工知性が人間を凌駕するようになった(その瞬間をシンギュラリティと言うそうです)とき、その人工知性の暴走を抑えるためにはどのように管理すべきか。もう一つは、小説内の設定、「全天紫外可視光輻射現象」を克服するための手段の探索。どちらかというと、前者の比重が高い内容となっています。
 用語や内容はかなりハードなSFですが、語り口や主人公がティーンの女の子の姿をしたアンドロイドって所はライトノベルな感じです。また、人工知能のコードネームがMESIAH(メサイア)だのAMATERASU(アマテラス)だのとむりくり英語を当ててネーミングしている所なども、読みやすくしようと努力した跡なのかもしれません。ご苦労なことです。
 しかし、著者の経歴(東大で物理学の学位を取ったそうです)が邪魔するのか、ところどころラノベ読者にはようわからんだろうと思われる表現もあったように思います。

 しかし、作品としての完成度は十分高かったように思います。ストーリー展開も自然で、あまりひねりがない分、安心して読み進めることができたように思います。これがデビュー作というのですから、今後が楽しみであろうと思われます。特に、ストーリーの中核アイディアが、前出の経歴を持った著者で無ければ提出できないと思われるところに高いオリジナリティを感じました。いろいろSFをよんできた私ですが、シンギュラリティ問題をテーマにした作品は初めてのような気がします。ただ、その解決方法は、著者も後書きで述べているように、少々ナイーブというか、理想論的な面があることは否めないです。この部分で、もう少しはっとするような解決方法がひねり出せるとよかったように思います。また、今後新作を作っていく中で、このようなインパクトのある中核アイディアを出し続けることができるかどうか、それが勝負になっていくでしょう。一発屋にならないことを祈りたいです。

 楽しく読めるおもしろいSFです。ハードSFファンでも十分読める無いようだと思います。

 映像化は難しいんじゃないかなぁ。特に、みんなが納得する天夢の造形は困難なんじゃないかと。

 すみません。相変わらず偉そうなことを言っています。

「シンギュラリティ・コンクエスト 女神の誓約」
山口優著 徳間文庫 や32-1

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2011年3月27日 (日)

のぼうの城 和田竜著 小学館文庫

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 私としては珍しく時代小説ですが、友人のすすめで読んでみました。

 雲を突くような大男でありながら、何をやらせても半人前以下の成田長親、忍城城主成田氏長のいとこであるのに、家中の者や領民からはでくのぼうを略してのぼう様と呼ばれてもいっこうに平気という男。豊臣秀吉の小田原攻めに際し、つきあいで小田原城にこもる氏長に代わって、成り行きで城代として攻め手の石田三成の大軍と対峙することになった。城内は降伏・開城やむ無しという空気であったのに何を考えたかのぼう様、石田三成の使いに「戦いまする」と言ってしまった…。

 あの石田三成の武将としての評価を大きく落としたと言われる武州忍城の水攻めのてんまつを忍城側から描いたこの小説ですが、癖のあるキャラクター一人一人がたっていて、生き生きと動く、痛快な小説となっています。いつもは表情もほとんど表さないのぼう様が、意外な将器を見せたり、あっと驚く策を見せたりと、大活躍します。しかし、解説にもありますが、この小説の中では主人公であるのにのぼう様の内面の表現は一切無く、他人の評価や憶測だけで表現されているというのも大きな特徴であろうかと思います。つまり、主人公がどう感じ、何を考えているのかという部分については一切表現されていないのです。このことがのぼう様のとらえどころのなさを増幅し、物語の展開に予断を許さない効果を上げているように思います。以外とこの小説は技巧的なのかもしれません。
 小説としてはとてもおもしろかったです。非常に楽しく読むことができました。さすが本屋大賞第二位をとるだけのことはあると思いました。時代小説を読まない人にもお勧めできると思います。

 帯によると、映画化の話が進んでいるとか。主人公ののぼう様を野村萬斎が演じるらしいです。野村萬斎氏は全然デブの大男ではありませんが、田植田楽を大向をうならせるほど上手に踊る必要があることを考えると、この人以外はちょっと考えられないキャスティングであるように思いました。読めばわかりますが、これはこの小説を映画化するに際して非常に重要です。また、榮倉奈々の甲斐姫というのはちょっと不満がありますが、それ以上に心配なのが、監督が樋口真嗣だと言うことです。大丈夫でしょうか。ちょっと見るのが怖いです。

 とにかく、エンタテイメント小説としては、一級品と思います。ご一読をおすすめします。

「のぼうの城」 和田竜著
小学館文庫 わ10-2

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2011年3月26日 (土)

ハーモニー 伊藤計劃 ハヤカワ文庫JA

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 読み終わってから3ヶ月くらいたつのですが、背表紙を見るたびにあの印象が思い出されるすごい本です。

 伊藤計劃氏の事実上の遺作であり、あの「虐殺器官」の続編とも言える作品です。だからといって、「虐殺器官」を読んでいないと読めない作品では全然ありませんが。

 「医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する”ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した。それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の影にただ一人死んだはずの少女の影を見る。」

 ネタバレ無しのあらすじは文庫の背表紙の抜粋で十分でしょう。この小説は、ディストピアテーマのSF小説であり、もっというなら、伊藤計劃版の「地球幼年期の終わり」である(ただし、クラークの作品とは全く違った意味合い)と思いました。
 文章は硬質ですが、読みやすく、伊藤計劃節をたっぷり味わえる、雰囲気たっぷりの文体です。
 内容は哲学的ですが、難しいことは何もなく、すいすい読みながらもたくさん考えさせられる作者らしい作品となっています。しかも、サスペンス小説であり、ミステリー小説であり、そして何よりもSF小説であるというのですから、すごいとしかいいようがありません。

 もっと伊藤計劃氏の作品を読んでみたかったです。

「ハーモニー」 伊藤計劃著
ハヤカワ文庫JA イ-7-2

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2011年2月13日 (日)

ゼロ年代日本SFベスト集成(F) 逃げゆく物語の話 大森望編 創元SF文庫

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 大森望氏編集による、「00年代(西暦2000年~2009年)の10年間に国内で発表されたSF短編から、歴史に残る作品をよりすぐった傑作選」です。この(F)の巻には、「現代を舞台にした”すこし・ふしぎ”系の物語を軸に」12編が収録されています。それだけに、ハード系よりもややファンタジー系・奇想系の作品が多いように思いますが、比較的読みやすい作品が多く、すんなり読めました。この一冊で「現代SFの豊かな広がりと多様性を示す」というのはその通りで、こんなにいろいろな構想のSFが成り立つのかと、日本SFの将来を期待させるものはあったように思います。収録されているのは次の12編。
 「夕飯は七時」恩田陸は、すこし・ふしぎ系だと言えば全くその通りですが、ちょっと不思議すぎたような気がします。
 「彼女の痕跡展」三崎亜記は、主人公が出会う不思議な展示会の話。確かに、自分の記憶に関してこんな印象を持った覚えがあるような気がします。ちょっと考えさせられました。
 「陽だまりの詩」乙一は、ポスト人類をテーマにした短編。雰囲気は良かったです。おすすめの一つです。
 「ある日、爆弾が落ちてきて」古橋秀之は、ある意味学園もののライトノベル。読みやすかったです。
 「光の王」森岡浩之については、ロジャー・ゼラズニィの作品とは無関係な内容だけど、なかなか興味深い設定の短編。あなたは先週の水曜日に何をしていましたか?
  「闇が落ちる前に、もう一度」山本弘は、宇宙論SF。山本弘氏の小説にしては、あまりスタイリッシュな面が少ないような気がしますが、ハードSFに分類してよいと思いました。
 「マルドゥック・スクランブル"-200"」冲方丁は、ミステリー仕立てのSF。マルドゥック・スクランブルファンならずともおすすめの短編です。
 「冬至草」石黒達昌は、硬質な文体の、生物学系ハードSF。個人的には、この本の中で一番のお気に入り。石黒達昌氏については、芥川賞候補になった作品を書いたこともある作家だそうですが、全然知らない作家でした。しかし、「鼻行類」が好きな私にとってこういう文体は大好きです。非常におもしろく読めました。
 「延長コード」津原泰水は、SFという感じがしない作品。実は、あまり理解できませんでした。
 「第二箱船荘の悲劇」北野勇作は、北野勇作氏らしい、簡潔な文章ながらはちゃめちゃな内容の作品。とはいえ、あまり好みの作品ではありませんでした。
 「予め決定されている明日」小林泰三は、仮想世界ものと言ってよいのかもしれませんが、よくわからない作品でした。小林泰三氏と言えば、ホラー小説というイメージがあるのですが。
 「逃げゆく物語の話」牧野修は、物語を物語る、いわゆるメタテキストな小説と言えるのでしょうか。ちょっと違うような気もしますが。ちょっと文学的すぎて、私には難しい小説でした。
 総じて、「ぼくの、マシン」よりも、日本SFらしさが前面に出ている作品群だったように思います。日本SFの短編アンソロジーとしてよくできています。ただ、確かに傑作揃いだと思いますが、いくつか、00年代の代表作とするには首をかしげたくなる作品も含まれているのも確かだと思います。
 なお、巻末の「ゼロ年代日本SF概況」は、非常に参考になる資料でした。一読の価値があると思います。

ゼロ年代日本SFベスト集成(F) 逃げゆく物語の話 大森望編 創元SF文庫

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2011年2月12日 (土)

ゼロ年代日本SFベスト集成(S) ぼくの、マシン 大森望編 創元SF文庫

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 大森望氏編集による、「00年代(西暦2000年~2009年)の10年間に国内で発表されたSF短編から、歴史に残る作品をよりすぐった傑作選」です。この(S)の巻には、「主に宇宙と未来(もしくはテクノロジーと人間と機械)を描いた11編」が収録されています。比較的ハード系の短編が多いと言えますが、やや前衛的な物も含まれています。これが「歴史に残る作品」かと言われるとそうかなという気もしなくはないですが、現時点でベストに近い短編集であることは言えると思います。収録されているのは次の11編。
 「大風呂敷と蜘蛛の糸」野尻抱介。この短編集の中で一番気に入った作品。超巨大な凧で宇宙の一歩手前まで行ってみる女子大生の話。私も地上スタッフでも良いので、学生時代にこんなプロジェクトに関わってみたかった。
 「幸せになる箱庭」小川一水も良かった。ちょっと考えさせられました。
 「鉄仮面をめぐる論議」上遠野浩平は、いまいち乗れませんでした。
 「嘔吐した宇宙飛行士」田中啓文には笑わされました。まさしく田中節。
 「五人姉妹」管浩江も興味深く読めました。女性作家らしい、しっとりした一編。
  「魚船・獣船」上田早夕里は、おもしろいのでしょうが、いまいちピンと来ませんでした。
 「A」桜庭一樹は、バーチャル・アイドル物でしたが、一ひねりあって、切り口がなかなか興味深かったです。
 「ラギッド・ガール」飛浩隆では、斬新なビジョンが展開されているように思いました。「象られた力」と似た雰囲気です。
 「Yedo」円城塔。相変わらず、よくわからない作品が多いです、円城塔氏は。しかし、氏の作品にしては比較的読みやすかったように思います。
 「A.T.D. Automatic Death■EPISODE:0」伊藤計劃+新間大悟は、00年代SFとしてはおもしろいのでしょうが、ちょっと中途半端な気がしました。舞台が共通しているという、「虐殺器官」の方がずっと興味深くておもしろかったです。
 「ぼくの、マシン」神林長平については、<雪風>シリーズを読んだことがない私にとって、いまいち入り込めませんでした。
  総じて、2000年~2009年の日本SFを概観するには良い短編集だと思いました。ただし、これが本当にベストと言えるかというと、それは人それぞれだろうなと言う気がしました。

ゼロ年代日本SFベスト集成(S) ぼくの、マシン 大森望編 創元SF文庫

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