結晶銀河 大森望・日下三蔵編 創元SF文庫
今年の年刊は今までの中で一番SFだとのことでしたが、個人的にはSFとは思えない作品もいくつかあると思われ、まだまだSF化の余地があるように思いました。今回は14編収録されています。
冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
いくら人類にとっての福音だとしても、その実験台にされるのはいやな気分なのは間違いないでしょう。この一編は、新人類の親になることに決定した女性の不安な気持ちが良く表現されています。
小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
こういう中世を彷彿とさせる時代にコンピューターがあったとしたら、それはどんな物になるのでしょう、当然、人力に頼らざるを得ないのではないでしょうか。この一編はそんなアイディアの下に書かれた短編です。実際にこんなものを作ったとしても、演算部分に必ず計算間違いが出るはずなので、精確な答えが出るはずがないのですが、お話としては楽しめたと思います。
上田早夕里「完全なる脳髄」
フランケンシュタインものの短編集に初出の作品だそうです。この作者の作品は、以前、「魚船、獣船」を読んだことがあるのですが、「完全なる脳髄」も雰囲気は作者独特のものになっています。これがよいと思うか否かは読者によると思いますが、私は作者独特のものとして良いのでは無いかと思っています。ただ、この傾向のものばかり読まされるとあきるような気もします。
津原泰水「五色の舟」
昨年、NOVAで読みました。そのときも思ったのですが、これってSFなのですかねぇ。私の思っているSFからはちょっと外れている一編のような気がしました。和風近代ファンタジーといわれれば納得するのですが。
白井弓子「成人式」
本短編集唯一のコミック。私は作者の名前を初めて拝見したのですが、この作品はよいと思いました。この短編集の中でのお気に入りの一つです。成人の儀式を扱ったSF作品はいくつかありますが、これはその中でも最も長い時間が書き込まれた作品だと思います。ずいぶん気の長い成人式です。
月村了衛「機龍警察 火宅」
はっきり言って、これはSFとは思えませんでした。普通の警察小説です。だからといって、つまらない作品ではありませんでした。ただ、「機龍警察」をあらかじめ読んでいないとちょっと入り込めない作品かもしれません。
瀬名秀明「光の栞」
作者は生物学で博士号をとっている方なだけあって、生物学的なアイディアは光るものがあるように思いました。生きている本なんて、比喩としてはあっても、実際に作るとなるとどんなに大変かよくわかりました。作品全体の雰囲気も良いです。
円城塔「エデン逆行」
ごめんなさい。私はこういうのが苦手です。最後まで読めませんでした。もっと私のようなものにもわかる作品をお願いしたいです。
伴名練「ゼロ年代の臨界点」
この短編集の中での一押しです。表題にすっかりだまされてしまいました。非常によく練られた、楽しめる嘘です。ハードSFとはとても言えませんが、これも立派なSFだと言えるでしょう。これが同人誌初出というのですから、最近の同人誌は侮れません。
谷甲州「メデューサ複合体」
昨年、NOVAで読みました。本短編集唯一かも知れないハードSFです。ちょっとおとなしめですが、読み応えは十分にあります。木星を舞台とした、土木SFです。
山本弘「アリスへの決別」
昨年あたりに話題となった都条例へのアンチテーゼというか、抗議の意味が込められたSFです。とはいえ、少々言い方がきついという気がしたのは私だけでしょうか。それにしても、昔のイギリスではこんなことが行われていたのですね。
長谷敏司「allo, toi, toi」
やや長い短編小説ですが、この一編も一押しです。私は心理学は得意ではありませんが、「好き」という感情がいかにあやふやなものであるかは、この一編で思い知らされたような気がします。その結末は決して心地よいものではありませんが、非常に考えさせられる作品でした。
眉村卓「じきに、こけるよ」
眉村卓氏といえば、中学生の頃(あぁ、もう35年近く前になる)よく読んだ覚えがありますが、その頃現役ばりばりでしたから、今では多少お年を召されたとしてもうなずける話です。この作品は、なんか、眉村卓氏も年取ったなぁ、という感じばかりが出てきてしまう一編でした。
酉島伝法「皆勤の徒」
第二回創元SF短編賞受賞作とのことですが、かなりぐちゃぐちゃな印象がある幻想的なSFです。実を言いますと、私の想像力は全くついていけませんでした。小説の最後に、補助的にイメージ図が書かれていてもです。難しいです。そんな印象ばかりでした。もっとわかりやすくならないものでしょうか。こういう作品ばかりが受賞するとなると、SFを読む人も書く人も減っていくような気がしてなりません。私は間違っているでしょうか。
「2010年の日本SF界概況」
これは非常に読み手として参考になりました。是非一読を。
全体として、2010年はSF短編として豊作だったという結論は否定しませんが、この短編集を見ると、「他人に読ませて金を取る」という観点よりも、「自分が書きたいものを書く」という観点から書かれた作品も多く書かれた一年だったのかなという気もします。個人的には、「お金を払っているんだから、そのぶん、楽しませて、感動させてくれよ」と思う派なので、今後はもう少しトレンドがエンタテイメント側に傾いてくれることを期待しています。
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