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2011年9月

2011年9月18日 (日)

Nova5 大森望編集 河出文庫

Nova5

 大森望編集(すみません、以下敬称略)のSF短編集の5冊目ですが、5冊目にして初めて全作品を違和感なく読み切ることができました。今回は読みやすい作品ばかりが収録されていたことが良かったです。収録作品も粒ぞろいで、今後のNOVAシリーズにも期待してしまいます。

「ナイト・ブルーの記録」上田早夕里
 「魚船・獣船」でも有名な作者ですが、いつもの生物学哲学的な内容ではなく、海洋を舞台とした拡張感覚がテーマとなっています。すごく説得力を感じました。熟練の職人に仕事の感覚を話させたらこんな感じになるのかもしれません。おすすめの一編です。

「愛は、こぼれるqの音色」図子慧
 これも、脳神経と感覚にまつわるお話ですが、趣はだいぶ異なります。脳神経に直接外部から感覚をインプットできるようになったら、当然こういう商売が出てくるだろうなと言う点ではすごく説得力があります。作者はライトノベル系の出身だそうですが、とてもそうは思えない思い作品です。

「凍て蝶」須賀しのぶ
 これは、ホラーというとちょっと違う気がしますが、不思議な話として読める幻想譚と言えるでしょう。この作者もコバルト文庫などで活躍するライトノベル系の作家だそうですが、この作品はもっと一般的な読者を対象としているように思います。登場人物、特にヨールが魅力的です。異形シリーズなどのファンにはおすすめの作品だと思います。

「三階に止まる」石持浅海
 挙動不審なエレベーターの話。ある意味ホラーなんでしょうけど、あまり怖くないです。著者は元々ミステリー作家なのだそうで、展開はまさしくミステリーですが、オチはホラーというか、ファンタジーとでもいいましょうか。特に、最後の二行が良い味を出しているように思います。

「アサムラール」友成純一
 笑ってはいけないのかもしれませんが、思わず笑ってしまう一編。バリ島でのんべんたらりと生活している日本人がとんだ災難に。作中の手記は大体実話とのこと。こんな日本人もいるんですねぇ。この人こそ、平成の無頼派作家と言えそうな気が。

「スペース金融道」宮内悠介
 「盤上の夜」でデビューした著者の新作。趣向としては、「ナニワ金融道」の宇宙版といった感じですが、決してこのマンガのパロディではありません。これはこれで作品として成立しています。宇宙植民時代(しかも、公民権のあるアンドロイドまで登場している)の金融業者というアイディアは斬新で、いかがわしさがえらくリアルです。この短編集の中でも一押しの一編と思いました。

「火星のプリンセス 続」東浩紀
 まだ未完なので、評価はひかえますが、次の展開を期待させられる一編となりました。ただ、「クリュセの魚」「火星のプリンセス」を読んでおかないとよくわからない話だとは思います。

「密使」伊坂幸太郎
 「ゴールデンスランバー」等の本格ミステリーで有名な著者のSF中編。実は、著者の作品はこの作品で初めて読みました。一種の時間テーマのSFなのですが、アイディアと語り口がすばらしいと思いました。とても読みやすくて中編の長さを感じさせないのもよいと思いました。この短編集の中でのベストと思います。しかし、「密使」の正体があれとはねぇ。

 解説によると、「NOVA6」は現在鋭意編集中とのこと。期待して良さそうです。また、「この人の作品が読みたい」とのリクエストも受け付けるとのことです。個人的には、有川浩、機本伸司、谷川流、恒川光太郎と言った所を提案させていただきます。

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2011年9月 3日 (土)

結晶銀河 大森望・日下三蔵編 創元SF文庫

Photo
 創元推理文庫から刊行される年刊日本SF傑作選の第四集です。

 今年の年刊は今までの中で一番SFだとのことでしたが、個人的にはSFとは思えない作品もいくつかあると思われ、まだまだSF化の余地があるように思いました。今回は14編収録されています。

 冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
  いくら人類にとっての福音だとしても、その実験台にされるのはいやな気分なのは間違いないでしょう。この一編は、新人類の親になることに決定した女性の不安な気持ちが良く表現されています。

 小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
  こういう中世を彷彿とさせる時代にコンピューターがあったとしたら、それはどんな物になるのでしょう、当然、人力に頼らざるを得ないのではないでしょうか。この一編はそんなアイディアの下に書かれた短編です。実際にこんなものを作ったとしても、演算部分に必ず計算間違いが出るはずなので、精確な答えが出るはずがないのですが、お話としては楽しめたと思います。

 上田早夕里「完全なる脳髄」
  フランケンシュタインものの短編集に初出の作品だそうです。この作者の作品は、以前、「魚船、獣船」を読んだことがあるのですが、「完全なる脳髄」も雰囲気は作者独特のものになっています。これがよいと思うか否かは読者によると思いますが、私は作者独特のものとして良いのでは無いかと思っています。ただ、この傾向のものばかり読まされるとあきるような気もします。

 津原泰水「五色の舟」
  昨年、NOVAで読みました。そのときも思ったのですが、これってSFなのですかねぇ。私の思っているSFからはちょっと外れている一編のような気がしました。和風近代ファンタジーといわれれば納得するのですが。

 白井弓子「成人式」
  本短編集唯一のコミック。私は作者の名前を初めて拝見したのですが、この作品はよいと思いました。この短編集の中でのお気に入りの一つです。成人の儀式を扱ったSF作品はいくつかありますが、これはその中でも最も長い時間が書き込まれた作品だと思います。ずいぶん気の長い成人式です。

 月村了衛「機龍警察 火宅」
  はっきり言って、これはSFとは思えませんでした。普通の警察小説です。だからといって、つまらない作品ではありませんでした。ただ、「機龍警察」をあらかじめ読んでいないとちょっと入り込めない作品かもしれません。

 瀬名秀明「光の栞」
  作者は生物学で博士号をとっている方なだけあって、生物学的なアイディアは光るものがあるように思いました。生きている本なんて、比喩としてはあっても、実際に作るとなるとどんなに大変かよくわかりました。作品全体の雰囲気も良いです。

 円城塔「エデン逆行」
  ごめんなさい。私はこういうのが苦手です。最後まで読めませんでした。もっと私のようなものにもわかる作品をお願いしたいです。

 伴名練「ゼロ年代の臨界点」
  この短編集の中での一押しです。表題にすっかりだまされてしまいました。非常によく練られた、楽しめる嘘です。ハードSFとはとても言えませんが、これも立派なSFだと言えるでしょう。これが同人誌初出というのですから、最近の同人誌は侮れません。

 谷甲州「メデューサ複合体」
  昨年、NOVAで読みました。本短編集唯一かも知れないハードSFです。ちょっとおとなしめですが、読み応えは十分にあります。木星を舞台とした、土木SFです。

 山本弘「アリスへの決別」
  昨年あたりに話題となった都条例へのアンチテーゼというか、抗議の意味が込められたSFです。とはいえ、少々言い方がきついという気がしたのは私だけでしょうか。それにしても、昔のイギリスではこんなことが行われていたのですね。

 長谷敏司「allo, toi, toi」
 やや長い短編小説ですが、この一編も一押しです。私は心理学は得意ではありませんが、「好き」という感情がいかにあやふやなものであるかは、この一編で思い知らされたような気がします。その結末は決して心地よいものではありませんが、非常に考えさせられる作品でした。

 眉村卓「じきに、こけるよ」
 眉村卓氏といえば、中学生の頃(あぁ、もう35年近く前になる)よく読んだ覚えがありますが、その頃現役ばりばりでしたから、今では多少お年を召されたとしてもうなずける話です。この作品は、なんか、眉村卓氏も年取ったなぁ、という感じばかりが出てきてしまう一編でした。

 酉島伝法「皆勤の徒」
 第二回創元SF短編賞受賞作とのことですが、かなりぐちゃぐちゃな印象がある幻想的なSFです。実を言いますと、私の想像力は全くついていけませんでした。小説の最後に、補助的にイメージ図が書かれていてもです。難しいです。そんな印象ばかりでした。もっとわかりやすくならないものでしょうか。こういう作品ばかりが受賞するとなると、SFを読む人も書く人も減っていくような気がしてなりません。私は間違っているでしょうか。

 「2010年の日本SF界概況」
 これは非常に読み手として参考になりました。是非一読を。

 全体として、2010年はSF短編として豊作だったという結論は否定しませんが、この短編集を見ると、「他人に読ませて金を取る」という観点よりも、「自分が書きたいものを書く」という観点から書かれた作品も多く書かれた一年だったのかなという気もします。個人的には、「お金を払っているんだから、そのぶん、楽しませて、感動させてくれよ」と思う派なので、今後はもう少しトレンドがエンタテイメント側に傾いてくれることを期待しています。

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